あの日のぬくもり。(後編)
翌日、ご主人は息を引き取られました。
あまりにも突然のお別れでした。
残された奥様が、ご自宅で一人暮らしを続けることは難しく、施設へ入居されることになりました。
それを機に、私たちの訪問も終わりました。
施設へ向かわれる日。
私は車いすを押しながら、アパートの下までご一緒しました。
迎えの車に乗り込まれる前、私は「元気でね」と声をかけました。
その時の奥様は、いつもの笑顔でした。
けれど、どこか少し硬く、以前のような屈託のない笑顔ではなかったように思います。
新しい暮らしへの不安もあったのかもしれません。
けれど、その時、奥様が何を思っておられたのか、本当のことは今も分かりません。
車はゆっくりと動き出しました。
私は、その姿が見えなくなるまで、ただ見送っていました。
後ろの窓から、奥様がこちらを向いて手を振ってくださいました。
私も、見えるように大きく手を振り続けました。
「元気でね。」
それが、お別れの言葉になりました。
施設でも穏やかな毎日を過ごされていたらと、ただ願うことしかできませんでした。
それから二十六年という月日が流れました。
奥様がその後どのような人生を歩まれたのか、私は知りません。
けれど、あの日のご夫婦の姿は、今も私の心の中に生きています。
病室で交わされた言葉は、ほとんどありませんでした。
それでも、静かに流れていた時間には、言葉では表せない思いがあったように感じています。
人は人生の中で、忘れられない風景に出会うことがあります。
私にとって、その一つが、あの日の病室でした。
ご主人の手のぬくもり。
病室の静けさ。
そして、お二人だけの時間を願って、そっと扉を閉めたあの日のこと。
二十六年経った今も、その記憶は少しも色あせることなく、私の心の中に残っています。
あの日のぬくもりは、人を思うことの温かさを、今も静かに教えてくれているような気がします。
このお話は前編から始まります。
よろしければ、こちらからお読みください🌿
https://tomokocounseling.substack.com/p/087
コメント、お待ちしています。
また、「こころのほとり」でお会いできたらうれしいです。




tomokoさん、こんにちは
奥様は、ひとり残されて、施設に行くことになって、どんな気持ちだったんでしょうか。
なんというか、切ない感じになりました。
私も、病院で働いていた時に、出会った患者さまたちで、忘れられない人たちがいます。
忘れられない出会いって、ありますよね。
心に残る記事をありがとうございます🎶
tomokoさん、おはようございます!
患者さんや利用者さんと関わる仕事だからこそ、
「あの方は今も元気かな?」と考えることは少なくありません。
どの対応がいいかなんて正解はないからこそ難しい世界だと、あらためて感じました。
前半から素敵な記事をありがとうございました☺️